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『なぜ私はここにいるの?』
『どうして生きているの?』
『ふさわしくない場所に
存在しているような気がして…』
『誰か
私のことを知っている誰かがどこかにいるのなら
返事をして欲しい』
『私はなぜココにいるのか…
教えて欲しい
生きているわけを…』
底なしの闇が広がる大空では稲妻が走り
時折、風が荒々しく駆け巡る
稲妻の光が空の様子を映し出す
空は雨で何かを洗い流すこともせず
ただ稲妻と共に大地に轟音を響き渡らせている。
大空では大自然の偉大な力が生まれ
そして何かを示すように…
この力は誰にも止められることなどできない
大自然は何者よりも偉大だから…
そしてその偉大な想いは
大空の彼方のある場所から見つめている
その想いを…
その願いを…
遠い彼方の場所から…
*********************
稲妻のエネルギーは何処から生まれるのか
それは誰も知らない
その大きなエネルギーは大地にサインを送り込んでゆく
稲妻の光で道に迷った人を照らしていたり
外出の危険を知らせて部屋に留まらせていたり
轟音は振動となり存在している全てのものを震わせては
全てのものへサインを残している
『心』とも言われる場所へ
『魂』とも呼ばれるその場所へ…
何もない大空から
厚い雲の隙間をくぐりぬけ
どんどんスピードを上げて
稲妻と共に地上と言われるその場所めがけて
稲妻の速さにあわせ
稲妻のまばゆい光と共に空気を引き裂き大地へと"何か"が降りてきた。
目には見えない"何か"…
空はその一度きりの稲妻の着地の成功を見届けると
厚く広げた雲はみるみるうちに
解散させて消えていった。
一瞬の出来事のように…
その"何か"は風に乗り漂いながら
まるでダンスを踊るかのように流れている
その『願い』の
その『想い』の主の所まで風に乗って走り始めていた。
何もない砂漠を抜けて
小さな運河からどんどん広がり
大きな森まで水の流れに乗って…
水のある場所には沢山の想いがひしめき合っている。
ここの世界に降りてきて何日が過ぎた頃だろう?
小さな声にならない想いを"何か"がキャッチしていた。
少年の小さな声
その声に意識を向けて風に乗って想いを受け取っていた。
風の流れに乗って想いの方へ駆け寄る
どんどんその想いのほうへ…
想いは弱々しくもはかないが
願いは強く
"何か"は、その願いに惹かれるように接近していった。
「もう僕はだめなんだ!
誰も僕を探してくれない
怖いよ~
誰か僕を助けて~
暗くて…寒いよ~~
お母さん心配ばかりかけてごめんなさい
お母さん…」
その風は古井戸に落ちた少年の傍に舞い降りていた。
やさしく風が吹き込んできて少年の髪が揺れた
少年は意識がもうろうとしたまま目を覚ました。
自分の上のほうには遠くに丸い出口が見える
そこには夜空が…
暗がりの中からは月夜の空が明るくさえ感じられるほどだった。
体は動かない
深さ3メートルはある穴に落ちて全身を強くぶつけてしまっていた。
声も出せない
指先だけを動かすことが出来る状態だった。
目を覚ました少年の瞳から
は静かに訪れる痛みと恐怖と寂しさが涙となって流れ出していた。
「このまま僕は死んでしまうの?
嫌だ!」
呼吸だけが感情で荒くなる。
でも体は動かない
声も出せない
何度も目を覚ましては
痛みや恐怖で意識が薄れていった。
諦めかけて悲しみや恐怖が薄れゆく中、少年は不思議な夢をみた。
それが夢なのか?現実なのか?
体の痛みも恐怖も感じなくなって目を開けると
傍には小さな光が舞い降りてきた。
ホタルのように漂いながら…
その輝かしい光に魅了されて
今、自分が置かれている状況をすっかり忘れてしまっていた。
その光は傍に来ると大きくなって声が聞こえた。
声が聞こえたような気がしたのかもしれない
言葉を感じていた。
何か懐かしい気持ちで
そんな不思議な場面でも少年は恐怖を感じなかった。
『お母さんに会いたい?』
そう感じ受け取っていた。
「おかぁさん?」その瞬間お母さんの思い出が沢山飛び出してきた。
今までの記憶が押し寄せてきたようだった。
「もう一度会いたいよ~お母さん!」
そして少年は再び意識を失っていった。
その光は小さくなって
少年のか細い寝息で舞い上がり
その古井戸から抜け出し、そして風に乗り
その記憶の音のする母の元へ駆け巡っていた。
しばらくするとその"何か"は子を思う母親の想いを受け取っていた。
それは
母親が、帰りの遅い子供を心配している強い想いだった。
少年の、あの走馬灯のような記憶に出てきた母親だった。
風に乗って来た"何か"は、
心配して近所の人たちも集まってきている部屋の中に舞い降りる。
そして子供を思う心配な想いを母親の肩越しで感じとっていた。
少年が家を飛び出して5時間は過ぎていた。
母親はその喧嘩の瞬間を何度も思い出しては自分を責めていた。
そのたびに体が震えながら涙が零れ落ちた。
「この子に何かあったら生きてゆけない」崩れ泣きながら
子供と過ごした記憶が蘇っていた。
母親のそばにいた"何か"は少年の想いを振り返っていた。
『お母さんに会いたい』そう願う想いを…
その時だった。
何気に顔を上げると
目の前に飛び込んできた言葉に惹かれた。
母親の視界は涙でゆがんで見えているはずなのに
WEST(西)
涙で見えない視界の中
部屋の壁に昔から貼ってあったポスターの言葉だけがはっきり見えたのだ。
その瞬間
母親は家から西側にある林を想いだした。
母親と肩越しに存在している"何か"は共に
部屋を飛び出し西へ走り出した。
突然走り出した
母親を追いかけるかのように警察や近所の人たちが走りだす。
母親は涙を流しながら…
ただただ林の中を無我夢中で走り出していた。
まっすぐ西へ…
子供の名前を呼びながら…
日が落ちた林に母親の声が響き渡っていた。
15分ほど過ぎた時だった。
母親は何かに足を奪われて転んでしまった。
息が切れて…
泣きながら再び走り出して我に返ったときだった。
後から追いかけてきて
『奥さん!大丈夫ですか?』
と話しかけた警察に…
母親は身動き一つしないでゆっくりと指を指した。
落ち葉と雑草の隙間から
母親の目の前には古い小さな井戸がそこに…
その傍には少年の靴
追いかけてきた人が懐中電灯でその古井戸の中を照らすと
気を失って倒れている少年が発見された。
なぜ母親がそこにたどりつけたのか?
誰にもわからない
誰でも突然衝動的になる事がある
理由などない
母親さえ偶然と言うしかない
ただひとつ確実に言えることは
お互いの想いが繋がりあっていたこと。
そして、その繋がりが何かにたどり着かせたのかもしれない。
願うことや想いは誰かに届いているのかもしれない。
目に見えない"何か"に…
母親の嬉しい安堵のため息で
その"何か"は井戸の中の少年の傍までゆき
『もう大丈夫だよ』と声をかける
か細い独り言のような安堵の「ありがとう」という少年の言葉で
"何か"は井戸から飛び出し林から星が輝く空へと舞い上がり
また気流に乗って消えていった。
願いや想いを手繰り寄せながらその何かの旅は今始った。
風は何処でも吹いている
何処からともなく
風は流れている
その風は晴れの日も雨の日も
朝も昼も夜も流れている
その風に乗って
何かが流れつく
体をすりぬけて心に届く何かもある
葉を揺らし
髪をゆらし
波を立て走り去る
それは貴方を知っている誰かかもしれない
遠い過去の遠い記憶のその先で出会っている誰かかもしれない。。。